審美的歯科矯正法-舌側矯正臨床基本テクニック-
舌側矯正(裏側からの矯正)における発音障害
1)舌側装置装着によってとくに影響を受ける音声
基本的には,舌が発育時に主に上下顎の前歯にあたる音が影響を受ける.
例えば,日本語ではタ行(TA)ナ行(NA)ラ行(RA)ダ行(DA)などである.英語における〔t〕〔d〕は歯茎破裂音(Alveolar Plosive Sound)に属し,歯茎部に舌先を一度ぴったりと押し当てて閉鎖した状態からそこを一気に完全に開いて空気を放出させる音である.
このため,上顎前歯に装置があると正しい閉鎖が行われず,障害が生ずる.
〔s〕は歯茎摩擦音(Alveolar Fricative Sound)は歯茎と舌を使って,狭められた息の通り道から息を押し出す音である.また,〔∫〕は口蓋歯茎摩擦音(P a l a t o -alveolar Fricative Sound)に属し〔s〕よりも広い範囲(歯茎から硬口蓋に至る)で摩擦が起きる.したがって〔s〕〔∫〕はかなり狭い間に息を通さなくてはならないのに,装置に厚み(凸凹)があるために発音時に適切な
間ができないために,いわゆるもれたような音になってしまう.
同じく,摩擦音(Fricative)である〔θ〕(例:thing)〔 θ 〕(例:this)の両方とも歯と舌を使って摩擦を起こして作る音だが装置をつけていると,
   
 

(1) 凸凹のある,したがって間だらけの装置が歯の代わりに舌に当たるため,適切な狭さの間ができない.
(2) 歯と舌先を使って音を出すが,舌尖周辺の広範囲に上顎前歯舌面装置が乗ってしまう.

  このため,いわゆるもれた音になったり,あるいは(2)の効果で破裂音が混合したような音に聞こえることがある.摩擦音と破裂音は原理上同時に出てくる音ではないが,唾液で舌と装置の間に膜ができて,この唾液の膜が破裂したとき,例えば〔p〕,プッ,のような破裂音がわずかに混ざったように聞こえるためと思われる.
   
2) 舌側装置装着後, 発音が正常になるのに要する期間(表13-1,図13-1)
  一般に患者の反応から推定すると,個人差はかなり大きいが,平均すると3〜4週間で舌側装置にかなり順応してくるようである.米国,Eastman Dental Cente rでの舌側装置装着後のスピーチに対する影響の研究では,次の結論が出されている.
  (1)個人差はあるが,平均すると患者のほとんどが装置に順応してくる1か月後になってもs,sh,t,dの音については不明瞭さが認められる(ただし10%以下).
(2) 舌側装置を上顎だけに装着した場合は上下に装着した場合に比較して発音障害が小さく,早く順応する.
 
表13-1 舌側矯正患者の上下顎装着と上顎だけの装着の比較(J. MariottiらのEastman Dental Center, Rochester, N.Y.でのデータより).
 
図13-1 発音するときの舌の状態(五十嵐
康男,正しい英語の発音マスター90分,昇
龍堂出版,東京,P33,1989.より
 
   
   
   
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