審美的歯科矯正法-舌側矯正臨床基本テクニック-
矯正診断に必要な臨床的診査(1)
  臨床的診査は形態分析と機能分析に分類される.
1)形態分析の種類
 
(1)顔貌の診査. 顔の形態的バランスを評価.顔面正中線の確認.
(2)模型分析. 歯牙・歯列の大きさ,形態の評価,上下顎正中線の確認.
(3)セファロ分析(頭部X線規格写真). 側方と前後(P-A).頭蓋・顎骨の形態的バランスおよび顔面のタイプを評価.
(4)パノラマX線写真.  
(5)顎関節X線規格写真. a.モンジーニ・プレッチ(Mongini-Preti)顎関節撮影装置(図10-1,2).
  b.顎関節X線断層撮影装置(Axial Tomography,図10-3,4).
 
図10-1 モンジーニ・プレッチ顎関節撮影装置.
図10-2 モンジーニ・プレッチ顎関節撮影装置によるX線写真.
図10-3 顎関節X線断層撮影装置(Axial Tomography).
図10-4 Axial-TomoによるX線写真.
図10-5 正中伝達装置による顔面正中線の設定.左右瞳孔を結んだ線の二等分垂線を顔面正中とする(パラマウント社製作).

図10-6 咬合器上の模型への顔面正中線のトランスファー.
2)機能分析の種類
  (1)咬合器による咬合診断
  (1)セントリックバイト(中心位の咬合採得).
(2)中心位での模型のマウント.
(3)正中伝達装置(パラマウント社,図1 0 - 5, 6)による顔面正中線の模型への伝達.
(4)CO-CRの変位の方向と量の計測.
C.P.I(. パナデント社,図10-7,8),MP(I サム咬合器),ナソグラフィー(Gnathography,図10-9, 10,東京歯材社).
(5)生体のヒンジポイント(Hinge Point)を含む平面(Articular Line)を基準としたとき,セファロ分析と咬合器上の模型分析を互換性をもって比較することができる.この2つの分析を基準として理想的機能咬合を具現化するためのセットアップモデル(Set-up Model)を製作する(図10-11, 12).
 
図10-7 C.P.I(. パナデント社
図10-8 C.P.I.によるCO-CR変位の量と方向の計測.
図10-9 ナソグラフィー(Gnathography,
東京歯材社)によるC O - C Rの変位の方向と量の計測.
図10-10 ナソグラフィーによる表示.
 
図10-11 セファロと咬合器上模型の互換性をもった比較分析.
図10-12 理想的機能咬合を具現化するためのセットアップモデル(Set-up Model)の製作.
 
図10-13 Axi-path Protractor(パナデント社)による下顎運動のレコーディング.
図10-14 顆頭運動のレコーディング.
 
 
図10-15 矯正治療前のレコーディング.
図10-16 矯正治療後のレコーディング
 
図10-17 パントグラフによる下顎運動の軌跡.
図10-18 パントグラフ(ディナー社).
 
   
(2)下顎運動の記録と診断
(1)
顆頭運動のレコーディング(限界運動).
Axi-path Protractor(パナデント社,図10-13〜16), Axiograph(SAM社),Pantograph(ディナー社,図10-17, 18).
   
(2)
咀嚼パターンの記録.  S.G.G(. Sirognathograph,シロナソグラフ),M.K.G. (Mandibular Kinesiograph).
   
(3)

その他(動的様能分析の補助となる術式)
(1)咬合接触状態の診査. プレスケール(Dental Prescale,富士写真フィルム).
(2)クロポールセンの筋診断.
(3)ゴシックアーチトレーシング.

3)咬合機能分析の要点
(1)

機能分析の目的は,機能障害を含めた咬合状態の把握とこのデータを基にした治療目標の具現化である.

 
(2)
患者にストレスをかけない状態で採得した再現性のある中心位は咬合治療の最も大切な出発点である.いわゆる中心位の確認は治療完了まで一貫して行われなければならない.
   
(3)
中心位での咬合器上にマウントされた模型によって,咬合干渉の部位および咬合干渉による下顎(顆頭)の偏位量を知ることができる.また,咬合調整の必要量を確認(矯正では動的治療の最終段階)する.
   
(4)
CO-CRの変位の量と方向は,C.P.I(. パナデント社)またはMPI(サム咬合器)によって計測できる.
   
(5)
下顎全体の変位の二次元的表示には,
a.平均値を用いた方式,
b.生体のヒンジポイントを基準とした方式,
がある.ただし,これらの方式は三次元的な下顎位を二次元的に表現しているために診断の有効性に限界がある.中沢らによるナソグラフィーは下顎全体の変位の状況をコンピュータグラフィックで三次元表示できる.
   
(6)
咀嚼運動は限界運動(解剖的)とチューイングパターン(機能的)の両面から観察すると,より正確な診断ができる.咀嚼サイクルは咀嚼運動の運動経路を切歯点で観察する方式が一般に用いられる.
   
(7)
顆頭運動のレコーディングはAxi-path Protractor(パナデント社),パントグラフ(ディナー社)などで行われる.
この目的は,
a.顆頭運動の性状と異状の程度を確認する,
b.前方顆路角を基準として個々の理想的機能咬合の具現化を図ること,である.
   
(8)
臨床上,イミディエート・サイドシフト(Immediateside shift以下I.S. と略す)と前方運動顆路角(Protrusive path angle以下,P.A. と略す)の採得は重要である. 寿谷によると, 日本人のI . S . 量は 1.0mm 以内が77%,また1.5mm 以内が91%であ
る.P.A. は38〜56°が83%,44〜50°に44%が含まれる(4 0 〜6 0 °,旗手ら).運動経路の長さは,15.0±3.5mmが平均であるが,20mm以上は顆頭の過剰な運動,10mm以下は運動の制限が推定される(旗手らによると開口運動時の最大下顎運動量の正常値は20 . 7±3 . 1 m m , 2 5 . 0 m m以上では下顎頭運動過剰,15.0mm以下では下顎頭運動制限).顆頭運動経路の分析は上記のデータなどを基にした正常者と比較すると同時に,左右側の比較,術前・術後の比較を行うことが重要である.
   
(9)
以上の術式を用いて,いわゆる咬合の不調和を機能的側面から診断する場合,次の三つの要素について異常の有無を確認する必要がある.
a.咬頭嵌合位の位置:中心位と前後的,左右的関係,習慣性閉口位との不一致,安静空量.
b.咬頭嵌合位の不安定:接触歯数の過少や偏在.
c.咬合接触:咬頭嵌合位と習慣性閉口位の不一致,中心位における片側性接触,作業側における臼歯単独接触,平衡側における咬合干渉,前方位における臼歯の咬合干渉と片側性接触.
   
(10)
いわゆる顎関節内障(Internal Derangements of TemporomandibularJoint)は,顎関節円板前方転位復位型と顎関節円板前方転位非復位型に大別される.
a.顎関節円板前方転位復位型(図10-19〜22)
咬合嵌合位で下顎頭の前方に転位していた顎関節円板が,下顎運動中に正常な円板と下顎頭の関係になるとき,クリック音とともに下顎頭運動経路上に屈曲(deflection)が認められる.下顎頭運動経路の全体像として8の字型を示す.
b.顎関節円板前方転位非復位型(図10-23)
前方に転位している顎関節円板は,下顎運動中も正常の円板と下顎頭の関係になることはない.下顎頭の運動量は少なく,かつ直線的である.下顎運動経路の全体像としては上に凸の形を示す.
その他,舌骨上筋群および外側翼突筋の機能亢進によって発現する,いわゆるAnterior over rotationclickなどが特徴的な下顎頭運動経路を示す(図10-24).
 

図10-19 顎関節円板前方転位復位型にお
ける下顎頭と顎関節円板の動態および下顎
頭運動経路(Freesmeyerらの図より).

 
図10-20 アキシパスレコーダーによる顆
頭運動の記録.左側下顎運動制限が認められる.
 
図10-21 右側顎関節円板前方転位復位型
と診断される顆頭の軌跡.
 
 
図10-22 この症例の顎関節断層撮影X線
写真(Axal Tone).
 
図10-23 顎関節円板前方転位非復位型に おける下顎頭と顎関節円板の動態および下
顎頭運動経路(Freesmeyerらの図より).
 
図10-24 顎関節円板前方転位復位型と
Anterior over rotation chickの複合型にお
ける下顎頭と顎関節円板の動態および下顎
頭運動経路(Freesmeyerらの図より).
 
(11)
咀嚼運動の制御システムは,シロナソグラフなどを用いて三次元的に解析される(図10-25,26).
これを用いて主に末梢オクルーザルガイダンスの異常(ガイド欠如・不足・過剰および異常と干渉など)および,中心咬合位の不安定や中心咬合位と咬合嵌合位の不一致などを解析する.これは,歯牙形態の適切性,下顎の位置,安全度,自由度
の診断に有効であり,リシェイピング(歯牙の補充的形態修正を含めた咬合調整)の指針として用いる(図10-27〜29).
 
図10-25, 26 シロナソグラフ(Sigrognathograph).
図10-27 シロナソグラフを用いた咬合調整1(咬合調整前)
図10-28 咬合調整2.一回目の咬合調整後の記録.
図10-29 咬合調整3.二回目の咬合調整後の記録
   
(12)
咬合圧の左右バランスを計測するには,咬合圧評価システム「デンタルプレスケール」( 富士写真フィルム,図10-30〜35)などの器械の使用が有効である.
 
図10-30 プレスケール[富士写真フィルム(株)].
図10-31 咬合圧計測用フィルム.
図10-32 咬合調整前のデータ.
図10-33 咬合調整後のデータ.左右咬合圧の調和が改善された.
図10-34 咬合調整前のデータ.
図10-35 咬合調整後のデータ.
   
(13)
生体のヒンジポイントを含む平面(A r t i c u l a t o r Line)を基準としたとき,セファロ分析と咬合器上の模型分析を互換性をもって比較できる.セファロ分析から下顎前歯の理想値を求め,レコーディングから求めた前方顆路角から前方切歯路角および咬合平面の位置を算定する.このデータを基本に治療方針と治療メカニックスを決定し,理想的機能咬合を具現化するためのセットアップモデルを製作する.
   
(14)
ストレートワイヤーテクニックを使用する場合は,セットアップモデルを基準としてブラケットの位置づけを決定する.
   
 
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