審美的歯科矯正法-舌側矯正臨床基本テクニック-
審美的歯科矯正法の概念
 
1) 審美的歯科矯正法と審美歯科 4)成人矯正の問題点と治療システム
2)審美歯科矯正の発展と審美的矯正装 5)舌側矯正と成人矯正
3)唇側審美的ブラケットの種類と特徴  
   
1)審美的歯科矯正法と審美歯科
  (a)審美歯科の定義
  近年の,いわゆるグローバル化に伴う国際的なコミュニケーションの急速な増大は日本人の美意識に確かな変化をもたらし,健康的で美しいスマイル,美しい口元と白い歯は自己アピールの重要な要素として認識されて来ている.
岩田によると美(Beauty)と倫理(Ethics)が審美歯科の柱とされる.ギリシャ哲学では美を客観的な美と主観的な美の2つに分けている.
この両者を調和させて患者の望む美を実現するかが重要になる.
客観的な美は大きさ,形態,配列が調和した状態と定義されてきた.大きさと形態は歯および歯肉に関連する(補綴,歯周治療).
配列は主に矯正治療に依存する.
また, 審美歯科のもう一つの柱である倫理観(Ethics)についてはアメリカ歯科医師会(ADA)が定義している.
 
ADAによる倫理観

1
2.
3.
4.

患者の受ける恩恵を第一にすること
患者に自主的選択権を与えること
医療の結果が適切であること
適正な治療費を要求すること

−BENEFICIENCE
−AUTONOMY
−DO RIGHT
−FAIR FEE

   
  (b)審美歯科の臨床基準
  (1)口元の審美
 
a)上口唇線(リップライン)
上口唇線(リップライン)は、ロー・ミドルそしてハイの3タイプに分類される
(写真3点は、岩田健男,伊東公一,小谷田仁:カラーアトラス 審美歯科,臨床基本テニック PARTT,P19.より引用)
タイプT:ロー・リップライン 歯間乳頭を全く露出しない.
矯正治療で上顎前歯を過度に圧下した場合にもみられる.
タイプU:ミドルリップライン 歯間乳頭部を僅かに露出する.
最も一般的で美しい.
タイプV:ハイ・リップライン 上顎前突あるいは、上口唇周辺の筋肉活動などが原
因で歯科治療に問題を出しやすいタイプ.
  (2)スマイルライン(笑線)
  微笑時の上顎前歯の切縁を結ぶ線をスマイルライン(笑線)と呼ぶ.上顎前歯の切縁と隣接面コンタクトポイントの高さが微笑時の下口唇線と平行になるのが調和のとれた状態である.図1-4 (写真2点は,岩田健男,伊東公一,小谷田仁:カラーアトラス 審美歯科,臨床基本テクニック.PARTI,P17より引用.)
 

図1-4

 

  (c)前歯の位置と口唇の関係
  (1)上顎前歯の露出量
上顎中切歯の露出度は静止状態での上口唇赤唇部の最下点(STMs)と上顎切歯切縁との距離(図1-5)
で評価する.この距離は上顎前歯の垂直的な位置関係(露出量)を決定する重要な示標となる.Leganらは理想値を2mmとし,前歯の3分の2以上が露出しないのが好ましいとしている.
また,“E”音(たとえばイー……)を発生したときに上顎前歯の切縁が上下口唇のほぼ中央の高さに位置するよう露出量を決めれば,垂直的な位置を決めやすいと報告されている.
  (図1-5)


  (2)口唇閉鎖部(リップ・エンブレジャー,EM)の評価
  前歯の露出度や口唇の形態は口元の審美性に与える影響が大きい.そのため,口唇閉鎖部(リップエンブレジャー)の位置自体が審美的に重要な決め手となる.この位置は頭部のエックス線規格写真上で咬合平面(O.PL)からの垂直距離によって計測できる(図1- 6). 根津らによれば日本人の標準値は−4.0mm(9歳時)である.マイナス値は口唇閉鎖部が咬合平面の上方にあることを示す.
 
図1-6 口唇閉鎖部(リップ・エンブレジャー)の評価 図1-7 審美平面(EST.PL). 図1-8 鼻上唇角.
(写真3点は、岩田健男,伊藤公一,小谷田仁:カラーアトラス 審美歯科,臨床基本テクニック.PARTI,P25より引用.)
 
2)審美歯科矯正の発展と審美的矯正装置
  現在,歯科医療を総合的あるは包括的な視点から診断,治療していく必要性が臨床歯科医療の中から生じている.
審美歯科の発展はこの傾向を如実に示している.
この歯科医療の包括化の中で矯正歯科だけが例外という分けにはいかない.審美性を求めて歯列矯正する患者に対して,審美的でないと一般に思われている矯正装置を長期間にわたって患者に強いる事は矯正歯科の自己矛盾である.
現実に矯正装置が患者の顔貌の審美性を長期間にわたって損なう事が矯正を患者がしたくない大きな要因である事は事実であろう.
特に,成人矯正患者に於いては社会的制約(職業、etc.)があり,審美性に対する要求と理想が高い. 矯正臨床医はこの患者の切実な要求に対して真摯に答えていかなければならない. この観点から,固定式矯正装置についての審美性の改善が着実に成されてきた.
 
1.Direct-Bonding法の開発
2.ブラケットの縮小化
3.セラミックブラケットおよびコーティングワイヤーの開発
4.Invisalignなどの可撤式装置による治療
図1-9 セラミックブラケットと歯冠色コーティングアーチワイヤー(NiTi).(オーソデントラム社 資料提供).
 
3)唇側審美的ブラケットの種類と特徴
  歯科矯正の分類には補助的矯正治療などの目的別分類および包括的矯正治療などの矯正範囲による分類がある.
審美的歯科矯正を分類すれば矯正装置の中の種類に属する.
唇側審美性ブラケットにはプラスチック,グラスファイバー,コンポジットブラケットなどがあるが,この中に金属スロットの付いたタイプがある.以上のタイプはセラミックブラケットに比較して摩耗および変形し易い.
  (1)セラミックブラケットの特徴
 
(1) 金属ブラケットより強度が劣る.(ジルコニアからなるセラミックブラケットは破壊強度が多結晶アルミナのブラケットより有意義に大きい)
(2) ブラケットとアーチワイヤーの摩擦力については、金属ブラケットに比較してセラミックブラケットの摩擦力が有意に大きな値を示した.
その原因はセラミックブラケットのスロット表面やエッジ形態が粗造で,ワイヤー表面の損傷が著しい事が挙げられる

図1-10
図1-10 セラミックブラケットの弱点であるアーチワイ
ヤーの摩擦力を減少させるために用いられた金属強化ス
ロット.(ロッキーマウンテンモリタ社 資料提供)
  Brackets used in this study.
A:Metal bracket
B:Ceramic bracket A
(polycrystalline alumina)
C:Ceramic bracket B
(polycrystalline alumina)
D:Ceramic bracket C
(Zirconia)
  図1-11 金属ブラケットとセラミックブラケットの摩擦の大きさ.(Tanne,K.,et al.: Frictional forces and surface topography of a new ceramic bracket. Am. J. Orthod. Dentofac. Orthop., 106:273〜278., 1994 より引用)
   
  (2)審美的可撤式矯正装置(Invisalign System)
  Invisalign Systemは,コンピューター・テクノロジーによって治療ステップに合わせた一連のclear plastic overlaysを制作しこれを順次患者が使用することによって,固定式矯正装置を用いずに矯正治療を行うシステムである.
歯に固定式装置を付けずに,クリアー・プラスティックを用いるので,間違いなく,審美的矯正装置といえる.
但し,この装置(Aligner)は,食事・歯ブラシ・の時間を除く一日20〜22時間使用しなければならない.これは患者にとって,かなりの負担といわざるおえない.
また,空閉鎖と叢生治療の治療可能な範囲におのずから限界がある.
(装置の作成)
矯正医は治療方針を記載したフォーム,印象(又は模型)とバイトワックスを技工所(Align Technology)へ送る.
模型は3次元コンピューター・イメージ処理され,仮想治療ステップをイメージとして作成して,この情報を基にして治療ステップ毎の装置を作成する.この装置の数は症例によって異なる.装置毎の歯牙移動量は,0.25〜0.33mm.装置の厚さは0.30インチである.
 
図1-12 Invisalign SystemのAligner.(ROBERT. L.B.etal.: The Invisalign System in Adult
Orthodontics:Mild Crowding and Space Closure Cases J.Clin. Orthd. 34:203〜212., 1994)より引用
 
4)成人矯正の問題点と治療システム
 

成人矯正の問題点については,生理学的要因と社会,あるいは心理的な要因がある.基本的には生体の活性が低下することによって矯正治療に対する病理的な変化が起こりやすいという問題点がある.したがって、成人矯正の場合には合理的で,偶発症を発生させない治療システムを確立する必要がある(表1-1).
現在,あるいは将来にわたっての矯正の目的,あるいは課題のなかから3つを選択すると次のものがある.

(1)理想的機能咬合を達成するための,均一化された治療システムの確立.
(2)患者にとって,審美的で快適な矯正装置の開発.
(3)治療期間の短縮.

現在のところでこれらの課題に対する回答として, (1)の理想的機能咬合に対してはコアー・システム (2)の審美的矯正装置に対しては発音障害が認められるにしても,舌側矯正に勝るものはない.(3)の治療期間の短縮については,コルチコトミー(Corticotomy)などの外科的療法や薬物の併用が考えられる.,これらの基本的術式を取り入れた,成人矯正の治療システムを図1-13に示す.

 

図1-13 成人矯正のフローチャート
       
5)舌側矯正と成人矯正
  歯科矯正学の目的は機能的正常咬合と顎顔面の審美性の確立である.最近の審美歯科の治療概念は,“歯科治療は本来,総合的観念からとらえなければ,その目的は達成できない”という発想を基礎としているように思われる.
審美性は,矯正治療を受診しようとする患者の動機の重要な位置を占めている.とくに成人症例においては,審美性に対する要求は高いものがある.成人症例は一般的に社会的制約が大きく,心理的な要因が関与する確率が高い.
成人症例に対しても,小児と同様,審美的でない矯正装置の数年間という長期にわたる装着を患者に強いることは,矯正治療の持つ最大の自己矛盾といえないだろうか.臨床医の使命の一つは,患者の希望を実現するために最大限の努力をすることである.
舌側矯正は従来の唇側矯正の審美的障害を理由に,治療を拒否せざるをえなかった患者に対する矯正臨床医の確実な貢献といえる.舌側装置の利点としては審美性のみが強調されがちであるが,治療メカニックスの面からみても大きな利点があることに注目すべきである.
例えば,舌側装置(Kurz)のいわゆるバイトプレーン効果は,過蓋咬合の咬合挙上にとくに有効である.
メカニックスとして歯列内,外側の一方または両面から自由に三次元的歯牙移動を実現することのできる術式を修得することは,矯正治療の質と可能性を高め,新しい矯正治療メカニックスの発想を生み出していくことになる.たとえば,前歯部過蓋咬合(Closed bite)や,被蓋の深いクロスバイト(Cross bite)では上下顎装置の同時装着が困難であるが,歯列内外の両装置を
併用することによって,容易に同時装着が可能となる.
舌側装置は審美性のみならず,矯正メカニックスにおいても,必要かつ欠くべかざる術式として,現在すでに矯正歯科のなかで一つの確固たる位置を占めているといえる.
 
生物学的要因
(1) 生体組織の適応能力の低下によって,矯正力による病的な変化を起こしやすい.
(2) 歯根吸収,歯肉退縮および後戻り(relapse)などが起こりやすい.
(3) 矯正治療期間が小児に比較して一般的に長くなる.
(4) 骨格的形態異常の改善は困難である.
(5) 歯牙支持組織の病的変化,咬耗,歯牙欠損および修復物の増加による咬合位,筋活動の変化が起こりやすい.
(6) 成人病などの全身的疾患を有する症例がある.
社会的・心理的要因
(1) 審美性に対する要求が強い.
(2) 職業などによる社会的制約によって,治療期間や術式が制限を受けることがある.
(3) 治療方針などに対する理解力は高いが,心理的問題を伴う症例がある.
 
全頁に戻る
▲TOPぺ戻る
Copyright (C) ,医療法人社団 審美会. All Rights Reserved  

 

矯正歯科審美歯科